イオン窒化処理による諸性質

使用材料と硬さ、深さの関係

 硬さ、深さはその部品のいろいろの機械的性質の基本をなす重要な要素であり、また設計の目安となるものです。

 イオン窒化はグロー放電を利用する特殊な方法であるので、原則として使用する材料は選びません。どんな材料でも一応、窒化は可能ですが、やはりその材質によって窒素が入りやすいものと入りにくいものがあります。これはもちろん冶金的原則に基づいており、2元系(第1図参照)、3元系状態図が参考になります。

 第2図に、いろいろな材料の高度分布曲線を示します。

 第1表に、各種材料の最表面層(化合物層)の硬さを測定した結果を示します。炭素含有量、合金元素などにより大きく左右されますが、イオン軟窒化の場合は、表面硬さを高くすることができます。また、第2図より分かるとおり、窒化しやすい材料ややはりクロム系統であり、クロム量が関係していることが理解できます。これはクロムの窒化物によるもので、その関係を図示したのが第3図です。第3図には参考までにクロムを含有しているJISの工手の下段に付記してあるので、材料を選ぶ際に役立ちます。

 第4図は窒化鋼の硬度分布曲線を示しており、この曲線は従来のガス窒化の60~90時間に相当しています。

 第5図はステンレス鋼の硬度分布曲線を示しています。ステンレス鋼の表面を窒化軟化できれば、耐摩性、耐かじり性が向上し、用途は著しく拡大します。しかし、ステンレス鋼の表面は強固なCr酸化物を主体とした不動態被膜で覆われ、窒素の新入が妨げられるので、一般には窒化は困難とされています。表面酸化被膜を除くため、塩酸その他ハロゲン化合物で処理する方法、グリットブラストをかける方法があり、処理後ただちにリン酸処理し、リン酸塩として処理する方法か、Matcomizirg法のように2段に分けて還元及び窒化を行っています。

 イオン窒化ではスパッタリング作用によって表面の酸化被膜が除去でき、窒素が侵入するので、従来の方法に比べて簡単に窒化が可能です。

 超高張力鋼の中で、マルテンサイト硬化鋼の窒化は従来折出温度より高く、経済的にも、技術的にも限界があります。従来のガス窒化の処理温度480℃以上では強度の低下を生じます。イオン窒化の場合、高電流グロー放電プラズマによって400℃程度での温度で充分窒化することができ、表面硬さHν⋍1000に、またベース硬さもHν⋍200~300上昇させることができます。これによって、折出硬化母材とともに硬化された表面の靭性が保たれることが保証できます。この操作によって、すべての材料の折出硬化と同様、表面硬化も付随して得ることができます。

第1図 Fe-N系状態図

第2図 イオン窒化した各種材質の硬さ分布曲線

第1表 イオン窒化処理した各種材料の

    最表面層のビッカース硬さ比較

第4図 窒化鋼の処理時間による硬さ分布曲線

第5図 ステンレス鋼の硬さ分布曲線

第3図 各種鋼材中のCr含有量と表面硬さとの関係

​表面からの距離(mm)

硬さ  

Hmv (L: 100g)​                

変形(ひずみ)

 一般に熱処理を行う場合、変形は必ず発生するものであり、最も頭を悩ませる問題です。イオン窒化の特徴の一つとして変形が少ないことが挙げられ、変形でお悩みの製品については一考される余地があります。

 第6図は細長いシャフトの例であり、これまで他の熱処理法では変形が大きく、処理後のひずみ取りと研磨で多大な費用と時間を要していましたが、イオン窒化では変形が非常に小さいため、処理前に研磨を済ませ、最終工程でイオン窒化したところ、表面もきれいであり、大幅なコストダウンが実現しました。

 第7図は歯車についての一例です。歯車の変化歯溝のブレ、単一ピッチの変化などを挙げていますが、いずれも変化は少なく、JISの級の低下がないほどでした。

 第8図は、その歯車の歯底部における硬度分布曲線です。

第6図 シャフトの変形(材質 SUS440,処理条件550℃×3hr)

第8図 歯底部における硬さ分布曲線

第7図 ギヤの変形(処理条件530℃×6hr)

疲労強度、耐摩耗性、切削性、その他

(1)疲労強度

 第9図はS35C、SCM435(調質)についての疲労試験結果を示し、10φ平滑試験片を用いた小野式回転曲げ疲労試験機によったものです。両鋼種の硬度分布曲線は第10図のとおり、イオン窒化したものの疲労強度は、無処理のものに比べ著しく上昇しています。

第9図 回転曲げ疲労試験

第10図 疲労試験片,断面硬さ分布曲線

(2)耐摩耗性

 イオン窒化の耐摩耗性について、第11図にステンレス鋼の事例を示します。第11図は、SUS403(マルテンサイト系)、SUS304(オーステナイト系)について示していますが、いずれも過酷な条件にもかかわらず、よい成績を残しています。硬さ分布については第5図を参照下さい。

第11図 ステンレス鋼の耐摩耗性

(3)切削性

 切削性については、工具などは数ミクロン程度イオン窒化することにより寿命が延びるといわれていますが、それは被加工材料に対する工具の使用条件により大きく変化するため、その工具の使用条件に合った処理条件を見出すことが重要です。その一例を第2表に示します。表から分かるとおり、直径6mmで優秀な成績を示したものが直径10mmのドリルでは効果がない結果になっています。それは表の使用条件に対して、その処理条件が6mmのものは適しており、10mmのものは適していないことを示しています。

第2表 ドリルの切削性試験結果

(4)金型の寿命

 金型については非常によい結果が出ています。熱間用金型(材質SKD61)をイオン窒化することにより、その寿命が1.5~3倍に延びており、また金型と鍛造品とのはなれが非常に良いと言われています。

(5)耐食性

 耐食性については、従来から窒化処理が有効であると言われてきましたが、最近、クロムメッキによるクロム公害が問題となり、硬質クロムメッキの代用が出来ないかとの依頼があります。この問題に対し、ある特殊な処理をすることにより硬質クロムメッキに十分代用し得る耐食性が得られました。

第3表 塩水噴霧試験結果(JIS Z 2371による)