イオン窒化の原理と特徴
イオン窒化の原理
低圧の窒素ガス雰囲気中で、炉体を陽極、被処理物を陰極とし、この間に直流電流を印加すると、グロー放電が発生します。このとき炉内の窒素ガスは電離して電子を放出し、窒素イオンは陰極すなわち被処理物の方向に向かって移動し、その表面直前の急激な陰極降下部によって拘束に加速され、被処理物に衝突します。イオンの持つ高速度の運動エネルギーは、衝突により熱エネルギーに変換し、被処理物を表面から加熱するだけでなく、一部は直接イオンを注入し、一部はカソード、スパッタリングを起こし、その表面から電子及びFe、C、Oなどの元素を叩き出します。叩き出された鉄原子は、グロー放電によって生成されたプラズマ中の原資状窒素と結合して、窒化鉄Fe‐Nを形成し被処理物表面に吸着します。
最表面上に吸着した窒化鉄Fe-Nは被処理物の温度上昇とイオン衝突により順次低位の窒化物が分解し窒素の一部は処理物内部に侵入拡散しその深さ、組織は温度と時間とに依存します。
また、一部の窒素は放電プラズマ中に戻り絶えずスパッタされるFeと結合して上述の現象を繰り返し、窒化を促進します。(右図参照)
以上のようにイオン窒化は表面処理法の一つではありますが、高周波焼入れ、火炎焼入れなどの表面付近の組織変化によるものではなく、窒素の侵入拡散による材料組成の変化にともなう硬化であり、根本的に異なるものです。
イオン窒化の反応プロセス
イオン窒化の特徴
(1)塩浴またはガスによる窒化と大きく異なり、化学反応作用ではないので、KCNまたはNH3ガスを必要とせず、N2ガスのみによって窒化することができるため、全く無公害であり、汚水も排出せず、特別の対策を講ずる必要がない。
(2)窒素ポテンシャルが高いので、窒化層を短時間で生成できる。
(3)加熱はグロー放電のため、特別な加熱装置を必要としない。
(4)被処理物以外は加熱されないため、他の炉のように炉全体を加熱する必要がなく、電力消費も少なくて済み、昇温設備及び保温設備を必要としない。
(5)発生期窒素をつくるための反応炉が必要ではない。
(6)窒化防止は、めっきまたは窒化防止剤塗布などの手続きを必要とせず、軟鋼板のCaseでカバーするのみで防止できる。
(7)窒化層の最表面層の状態をコントロールすることができる。
(8)ガス圧は大気圧の1/100程度であり、ガス消費量が非常に少ない。
(9)火災、爆発の心配が全くない。
(10)350~590℃の範囲の処理のため、ひずみ量は極めて少ない。
(11)被処理物の表面状態は、真空中での処理のため、まったく清浄で、後加工、後処理の工程を必要としない。